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Showing posts from April, 2020

VeryShortStory 「折鶴」/ An origami crane.

 追い詰められた少年が、崖っ淵に立っていた。背後には追手が迫っていた。「鳥になるんだっ!」と叫んで身を投げた。  病気の父を持つ少女が、折鶴を折り始めた。千羽まで出来たところで、折った覚えのない鶴が一羽紛れていることに気づいた。 / A boy chased down was standing at an edge. Pursuers were close behind him. "I can fly!" he shouted, and threw himself.  A girl who has a sick father began to make origami cranes. When the cranes reached a thousand, she found a crane she didn't remember making. 

VeryShortStory 「新月の晩」 / " On a new moon night"

新月の晩 新月の晩、散歩に出てみた。闇の中、胸の内の分別だけが頼りだった。財布もスマホも家に置いて来た。服を着る意味もあるまい、脱ぎ捨てた。歩き続けると、ここが何処だか分からなくなった。今何時だかも分からなくなった。こうして私は一吹きの夜風になってしまった。 / On a new moon night On a new moon night, I tried to take a walk. In the darkness, I relied on only my own sanity. I'd left my wallet and smartphone in my home. Wearing clothes was nonsense, so I took off all. While walking, I lost where I was, and what time it was. Like this, I became a night wind. 

【創作】世間の議論【小噺】/ [A funny] One discussion [little tale]

【創作】世間の議論【小噺】 論者A「いいですか、よく聞きなさい、分かりやすいように結論から先に言いますよ。キャベツは野菜だ。物理学者の間ではよく知られた事実だったし、その最先端の理論についても、今や市民レベルでれ理解されつつあるのです。各新聞社の世論調査がこぞって証明している通りですよ。」 論者B「毎度のことだが、話の論点をずらすのが上手いなお前、インテリ野郎はいつもそれだ。俺が高卒だからって舐めてんだろ。俺だってその筋の初歩くらい知ってんだぞ。その上で言ってんだ、リンゴは果物だ。世界中、どこ行ったって果物売り場で売られてるだろ。」] 論者A「君のその一途さには頭が下がる思いだよ。でもそれが結果として君の狭量さにもなっているんだよ。別に論点をずらす意図はないよ、ただ、物事は多角的に見るべきなんだよ。キャベツは野菜だよ。よく耳かっぼじって聞いてくれ、人の話を。」 論者B「毎度毎度もっともらしい前口上なんぞ付けやがって、俺が何と反論しようが、最初から結論を変える気なんかないくせに、お前の耳こそドリルで掃除してやりたいよ。リンゴは果物だ。」 論者A「またしても話が平行線のままになってしまって残念この上ない。これからも、せめて、私がキャベツは野菜だと君に訴え続けてきたことを、心の隅にでも置いておいてほしい。」 論者B「あんたこその毎日リンゴを百ダースほど喰って、俺の言ったことを噛みしめやがれ。」 / [A funny] One discussion [little tale]  Debater A: " You should understand me this time, so listen to my words carefully. I will give the final conclusion first so you can comprehend better. Cabbage is a vegetable. This fact has been known well among physicists since long ago, and now, even at the level of citizens, the basis of the cutting-edge theor

VeryShortStory「夜の散歩」/ Night walking

「夜の散歩」 昨日の晩散歩をしていたら、ベンチに座る知らぬ人に出くわした。彼女はじっと空を見上げていた。不思議に思って尋ねた。"ここで何をしているのですか?" 年配の女性が答えた、"私は占星術師です、ちょうど、あなたをお待ちしていたところです。あなたを占って差し上げましょう。" 私は脱兎の如く逃げ出した! / Night walking I was taking a walk last night, and came across a stranger sitting on a bench. She looked still up at the sky. I wondered at her, and asked, "What do you do here?" The aged lady responded, "I'm an astrologist, and just waited for you. I will tell your fortune."  I ran off in a flash!

「塔」  町はずれの、小高い丘に立つその塔は、町のどこからでも、天を突くその尖頭を仰ぎみることができた。だが、不思議なことに、誰が何の目的で建てたのか、どうやってあの高さまで煉瓦を積み上げたのか、記録が残っていなかった。  町より長い過去を持つ塔は、いつも人々の話の種になっていた。てっぺんは月も見下ろす高さだとか、異邦からやってきた巨人が登頂に成功したらしいとか、神様が伝って降りてくるのを見た者がいるとか、諸々の伝説も生まれた。  町に一人いる、老いた考古学者は、膨大な書物を渉猟し、丘の発掘調査を繰り返していた。初代から数えて六代に渡り、塔の起源を研究し続けているのだが、「一向わからんよ。」と言うばかりだった。  町にはもちろん、腕の利く大工達もいた。彼らは、長年月、微動だにせず風雪に耐えているその建築物に、賛嘆したのだった。さらに、その強さの秘密を明かそうと、毎度実験と計算を繰り返すのだが、どんな理屈も理論も通じなかった。  そんなある時、町で評判の女占い師が予言をした。「あの高くて頑強な塔のてっぺんに、明るい灯を点しなさい。きっと輝く星となって、新しい幸運の星座ができることでしょう。」。  人々は予言を信じた。町の仙人に「消えない灯」を作らせた。これを背負って塔を登る軽業師も選んだ。若い軽業師は、人々の期待を一身に集めた。そして、とうとう塔に登る日がやってきた。    天候に恵まれたその日の朝早く、丘に集まった人々の注視する中、火を背負った軽業師は登り始めた。煉瓦と煉瓦の間に手と足を挟み込み、さも軽々と尖頭を目指してよじ登って行くのだった。  登りはじめて、みるみる軽業師の姿は小さくなり、やがて見えなくなった。背負った灯も、昼の光の中に消えた。人々はそれぞれ家の生活と仕事に帰ってゆき、夜に現れる新星を、心中心待ちにするのだった。  軽業師は、どんな高みも恐れないと自負している男だった。サーカス団の演目で、人々の頭上高いところで綱渡りをしてみせるのを、常の仕事にしていた。わざと綱から落ちそうに見せる芸さえ、持ち合わせていたほどだ。  今日の仕事を持ちかけられたときも、即、承諾した。軽業師にとって、この塔の高さは、いつも目障りだったのだ。人々がもっとも畏れる高みが、自分の綱渡りではないことを、腹に据えかねていた。  疲れを知らぬ軽業師は登り続けた。既に遠く人界を離れ

「羽」  天使の羽を織るのが、彼の仕事だった。  多くの天使たちの注文にこたえていた。  彼がいなければ、天使たちは空を飛ぶことさえ、ままならないのだ。  羽をもらって、新たに天使となるものもいれば、  羽を失った堕天使たちからの注文もあった。   日々の彼の仕事のおかげで、世界は天使にあふれていた。  彼は、多くの天使たちに感謝され、祝福された。  だが、彼自身は天使ではなく、人生は有限だった。  そして、あるとき、彼は多くの天使たちに囲まれながら、天寿を全うした。  それで、もう羽をつくってくれる職人さんがいなくなってしまった。   もう、新たに天使が羽を持つことはできなくなってしまった。  だから、羽のない天使が地上にあふれるようになった。  もはや飛び立つことのできないことを憂えたが、  そのかわり、地上を直立して歩くことを覚えた。  それが人類の始まりだった。  天使の羽にあこがれる君も、その末裔の一人なのさ。  作  2007年08月02日

「池」 森の奥に、その池はあった。  春には雪解け水がそそぎ込み、  夏には子供たちに水遊びをさせ、  秋には紅葉を映す鏡となり、  冬は氷の静寂に閉ざされるのだった。  ある夏、男がやってきた。  猛暑が連日続いた折、例年通り、涼をもとめてやって来たのだ。  空から降ってくる日の光が、男の肌を焼いた。  もう若くはない男には、この季節が恨めしいものになっていた。  ただ、水に触れる感触を、ひとり愉しんでいた。  水遊びの、半裸の少女がひとり、近づいてきた。浮き輪を抱えて。  そして男にたずねた。「おじさん、このお池はどれだけ深いの?」  男には答えられなかった。考えたことのない問題だった。  天を仰いで自分の愚かさに恥じ入った。  少女は退屈そうな顔をして去っていった。  その夏以来、男は考え続けた。いくつもの春秋を越えた。  仕事を退いてからは、池のほとりに小屋を建てて暮らした。  ただ一つの解をさがしていた。求めていた。  そんなある日、ふと思いが巡った。  「少なくとも、私の一生よりは深いらしい。」  そして、男は死んだのだ。  作  2007年07月28日