「羽」

 天使の羽を織るのが、彼の仕事だった。 
多くの天使たちの注文にこたえていた。 
彼がいなければ、天使たちは空を飛ぶことさえ、ままならないのだ。 
羽をもらって、新たに天使となるものもいれば、 
羽を失った堕天使たちからの注文もあった。 

 日々の彼の仕事のおかげで、世界は天使にあふれていた。 
彼は、多くの天使たちに感謝され、祝福された。 
だが、彼自身は天使ではなく、人生は有限だった。 
そして、あるとき、彼は多くの天使たちに囲まれながら、天寿を全うした。 
それで、もう羽をつくってくれる職人さんがいなくなってしまった。 

 もう、新たに天使が羽を持つことはできなくなってしまった。 
だから、羽のない天使が地上にあふれるようになった。 
もはや飛び立つことのできないことを憂えたが、 
そのかわり、地上を直立して歩くことを覚えた。 
それが人類の始まりだった。 

天使の羽にあこがれる君も、その末裔の一人なのさ。 



作 2007年08月02日

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