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VeryShortStory クーポン券 / Coupons

兵卒達が野営地で飯炊きをしていた。焼かれる鳥を前に、皆んな舌舐めずりをしていた。そこへ安倍伍長殿がやって来た。「おいお前ら、その飯と俺のお肉券を交換しようぜ。和牛が食えるぞ!」ある新兵が言った。「それならこちらの旅行券と交換です、伍長殿!」 / Soldiers were cooking in a camp, and they felt hungry in front of the baked chicken. And then corporal Abe came and said, "Hey guys! Exchange your meals for my meat coupons, so you can eat Japanese beef!" A recruit said, "In that case, we will exchange our travel coupons for them, sir! "

VeryShortStory 「折鶴」/ An origami crane.

 追い詰められた少年が、崖っ淵に立っていた。背後には追手が迫っていた。「鳥になるんだっ!」と叫んで身を投げた。  病気の父を持つ少女が、折鶴を折り始めた。千羽まで出来たところで、折った覚えのない鶴が一羽紛れていることに気づいた。 / A boy chased down was standing at an edge. Pursuers were close behind him. "I can fly!" he shouted, and threw himself.  A girl who has a sick father began to make origami cranes. When the cranes reached a thousand, she found a crane she didn't remember making. 

VeryShortStory 「新月の晩」 / " On a new moon night"

新月の晩 新月の晩、散歩に出てみた。闇の中、胸の内の分別だけが頼りだった。財布もスマホも家に置いて来た。服を着る意味もあるまい、脱ぎ捨てた。歩き続けると、ここが何処だか分からなくなった。今何時だかも分からなくなった。こうして私は一吹きの夜風になってしまった。 / On a new moon night On a new moon night, I tried to take a walk. In the darkness, I relied on only my own sanity. I'd left my wallet and smartphone in my home. Wearing clothes was nonsense, so I took off all. While walking, I lost where I was, and what time it was. Like this, I became a night wind. 

【創作】世間の議論【小噺】/ [A funny] One discussion [little tale]

【創作】世間の議論【小噺】 論者A「いいですか、よく聞きなさい、分かりやすいように結論から先に言いますよ。キャベツは野菜だ。物理学者の間ではよく知られた事実だったし、その最先端の理論についても、今や市民レベルでれ理解されつつあるのです。各新聞社の世論調査がこぞって証明している通りですよ。」 論者B「毎度のことだが、話の論点をずらすのが上手いなお前、インテリ野郎はいつもそれだ。俺が高卒だからって舐めてんだろ。俺だってその筋の初歩くらい知ってんだぞ。その上で言ってんだ、リンゴは果物だ。世界中、どこ行ったって果物売り場で売られてるだろ。」] 論者A「君のその一途さには頭が下がる思いだよ。でもそれが結果として君の狭量さにもなっているんだよ。別に論点をずらす意図はないよ、ただ、物事は多角的に見るべきなんだよ。キャベツは野菜だよ。よく耳かっぼじって聞いてくれ、人の話を。」 論者B「毎度毎度もっともらしい前口上なんぞ付けやがって、俺が何と反論しようが、最初から結論を変える気なんかないくせに、お前の耳こそドリルで掃除してやりたいよ。リンゴは果物だ。」 論者A「またしても話が平行線のままになってしまって残念この上ない。これからも、せめて、私がキャベツは野菜だと君に訴え続けてきたことを、心の隅にでも置いておいてほしい。」 論者B「あんたこその毎日リンゴを百ダースほど喰って、俺の言ったことを噛みしめやがれ。」 / [A funny] One discussion [little tale]  Debater A: " You should understand me this time, so listen to my words carefully. I will give the final conclusion first so you can comprehend better. Cabbage is a vegetable. This fact has been known well among physicists since long ago, and now, even at the level of citizens, the basis of the cutting-edge theor

VeryShortStory「夜の散歩」/ Night walking

「夜の散歩」 昨日の晩散歩をしていたら、ベンチに座る知らぬ人に出くわした。彼女はじっと空を見上げていた。不思議に思って尋ねた。"ここで何をしているのですか?" 年配の女性が答えた、"私は占星術師です、ちょうど、あなたをお待ちしていたところです。あなたを占って差し上げましょう。" 私は脱兎の如く逃げ出した! / Night walking I was taking a walk last night, and came across a stranger sitting on a bench. She looked still up at the sky. I wondered at her, and asked, "What do you do here?" The aged lady responded, "I'm an astrologist, and just waited for you. I will tell your fortune."  I ran off in a flash!

「塔」  町はずれの、小高い丘に立つその塔は、町のどこからでも、天を突くその尖頭を仰ぎみることができた。だが、不思議なことに、誰が何の目的で建てたのか、どうやってあの高さまで煉瓦を積み上げたのか、記録が残っていなかった。  町より長い過去を持つ塔は、いつも人々の話の種になっていた。てっぺんは月も見下ろす高さだとか、異邦からやってきた巨人が登頂に成功したらしいとか、神様が伝って降りてくるのを見た者がいるとか、諸々の伝説も生まれた。  町に一人いる、老いた考古学者は、膨大な書物を渉猟し、丘の発掘調査を繰り返していた。初代から数えて六代に渡り、塔の起源を研究し続けているのだが、「一向わからんよ。」と言うばかりだった。  町にはもちろん、腕の利く大工達もいた。彼らは、長年月、微動だにせず風雪に耐えているその建築物に、賛嘆したのだった。さらに、その強さの秘密を明かそうと、毎度実験と計算を繰り返すのだが、どんな理屈も理論も通じなかった。  そんなある時、町で評判の女占い師が予言をした。「あの高くて頑強な塔のてっぺんに、明るい灯を点しなさい。きっと輝く星となって、新しい幸運の星座ができることでしょう。」。  人々は予言を信じた。町の仙人に「消えない灯」を作らせた。これを背負って塔を登る軽業師も選んだ。若い軽業師は、人々の期待を一身に集めた。そして、とうとう塔に登る日がやってきた。    天候に恵まれたその日の朝早く、丘に集まった人々の注視する中、火を背負った軽業師は登り始めた。煉瓦と煉瓦の間に手と足を挟み込み、さも軽々と尖頭を目指してよじ登って行くのだった。  登りはじめて、みるみる軽業師の姿は小さくなり、やがて見えなくなった。背負った灯も、昼の光の中に消えた。人々はそれぞれ家の生活と仕事に帰ってゆき、夜に現れる新星を、心中心待ちにするのだった。  軽業師は、どんな高みも恐れないと自負している男だった。サーカス団の演目で、人々の頭上高いところで綱渡りをしてみせるのを、常の仕事にしていた。わざと綱から落ちそうに見せる芸さえ、持ち合わせていたほどだ。  今日の仕事を持ちかけられたときも、即、承諾した。軽業師にとって、この塔の高さは、いつも目障りだったのだ。人々がもっとも畏れる高みが、自分の綱渡りではないことを、腹に据えかねていた。  疲れを知らぬ軽業師は登り続けた。既に遠く人界を離れ

「羽」  天使の羽を織るのが、彼の仕事だった。  多くの天使たちの注文にこたえていた。  彼がいなければ、天使たちは空を飛ぶことさえ、ままならないのだ。  羽をもらって、新たに天使となるものもいれば、  羽を失った堕天使たちからの注文もあった。   日々の彼の仕事のおかげで、世界は天使にあふれていた。  彼は、多くの天使たちに感謝され、祝福された。  だが、彼自身は天使ではなく、人生は有限だった。  そして、あるとき、彼は多くの天使たちに囲まれながら、天寿を全うした。  それで、もう羽をつくってくれる職人さんがいなくなってしまった。   もう、新たに天使が羽を持つことはできなくなってしまった。  だから、羽のない天使が地上にあふれるようになった。  もはや飛び立つことのできないことを憂えたが、  そのかわり、地上を直立して歩くことを覚えた。  それが人類の始まりだった。  天使の羽にあこがれる君も、その末裔の一人なのさ。  作  2007年08月02日